投稿日:2014-08-23 Sat
こんにちは僕、大沼ヒロシです。マルぼんが出て行ったっきり帰ってこないので、今日は僕が更新を担当させていただきますね。マルぼんと一緒に出かけた父さんの話だと「マルぼんは、テニススクールで知りあった、過労死した銀行員の未亡人といい仲になって、相手の家でヨロシクやっている」らしいんですが、僕にはそんなこと、一言も言ってません。水臭いな、マルぼんのヤツ。ちぇ。
さて。話は変わりますが、その父さんが犬を連れて帰ってきました。
「取り引き先のお偉いさんから預かって」と頼まれたらしい「数々のコンクールでグランプリを総なめにした」素晴らしい犬なんだそうですが、僕にはどうしても人間のおじいさんにしか見えませんでした。
しゃべるし。二足歩行するし。「ばあさん! 太郎と花子に妹か弟を!」と叫びながら母さんに抱きつくし。母さんまんざらじゃなさそうだし。エロゲーかっての。
でも、父さんは「人間のじいさんみたいだから珍しい犬なんじゃないか」と言うのみ。犬に詳しい父さんですから、まぁ、正しいんだろうと納得することにしました。
それに人間に似ていたら、母さんの悪い癖(犬食い。四本足のものはイス以外なら何でも食う主義)もでないでしょうし。ねえ? 母さん。
母さん「ヒロシは『ひかりごけ』って映画知ってる? 『生きてこそ』は? 『食人大統領アミン』は? あ、『ハンニバル』ならメジャーだから知っているでしょう?』
母さんは、なぜか聞いたことのないような映画のタイトルを羅列しました。
この映画の数々になんの共通点があるのか、僕にはさっぱりわかりません。
とにかく、わが家から1人の家族が去り、1人……じゃなくて1匹の家族がやって来たのです。これからよろしくネ! 『古沢甲三(72歳)』!
わが家の新しい家族、子犬の『古沢甲三(72歳)』。
僕は、残念ながらこいつとは仲良くなれそうにありません。
ごはんはこぼす、夜に外を徘徊する、亡き妻の名を叫びつづける、僕を息子の太郎と勘違いする、犬小屋にいれていたら近所に変な噂をたてられるなど、いいことがまるでないのです。
僕は、マルぼんの帰りを待ちつづけることにします。マルぼん! 僕らの友情は無敵だ!
今も、僕のことを太郎と間違えて、なにか差し出してきました。
古沢甲三(72歳)「太郎や。愛しい愛しい太郎や。お小遣いを上げよう。この貯金通帳から、いくらでもおろしなさい」
僕「わーい! 古沢甲三(72歳)だーいすき!」
みなさん知っていますか? 家族の絆も金で買えるのです。
しかし、僕ら大沼一家(除くマルぼん)と古沢甲三(72歳)の蜜月は、唐突に終わる事になってしまったのです。
マルぼんが、刑事や警官を連れて帰宅。
国家の犬たちは逮捕礼状を見せると、父さんに手錠をはめ、あっという間に連行してしまいました。
古沢甲三さん(72歳)の誘拐と、マルぼんへの殺人未遂の容疑だそうです。
僕「マルぼん。古沢甲三さん(72歳)は子犬じゃなかったんだね」
マルぼん「できれば直感で分かって欲しかったね。友人としては。それから、パパさんは多分、罪に問われない種類の人間だから安心しとけ」
罪に問われない種類の人間? さっぱりです。
しばらくすると、古沢甲三さん(72歳)の家族が、老人ホームの職員さんと訪ねてきました。
古沢甲三さん(72歳)の息子「父がお世話になりました」
僕「古沢甲三さん(72歳)、老人ホームでもお元気で」
ホームの職員「あ、そういえば、今月の入所費用、まだ払ってもらってないです」
古沢甲三さん(72歳)の息子「父の通帳から引き落す事ことになってる筈ですが」
僕「古沢甲三さん(72歳)は、つ、通帳とか、も、持ってなかったです。ハイ」
ホームの職員「それじゃあ、家族の方に引き取ってもらうしか」
古沢甲三さん(72歳)の息子「え? それはちょっと……ちょっとですね、女房が嫌がって。子供も受験で」
僕は「家族」という集団の、黒い部分を垣間見ました。少し大人になった気がしました。
で、結局、古沢甲三さん(72歳)はどうなったかというと……
古沢甲三さん(72歳)「太郎! 太郎! ばあさんはどこかね!?」
まだ、うちにいるのです。
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